2022/06/03 (金) 「マクベス」から「窓際のスパイ」まで・2022年1月―5月の映像シャワー。
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アンドレア・ライズボローだけにうつつを抜かしていたわけではないということで、彼女の出演作以外の2022年度映像シャワーをダダっと並べておこう。ひょっとすると既に書き綴ったものもあるかもしれない。それは、高齢社会部執筆者ということでご勘弁。
「マクベス」A ジョエル・コーエンの秀作。デンゼル抜群のうまさ。魔女のキャサリン・ハンター、さすが大御所舞台女優、すごいなんてもんじゃない。Mesmerizing!
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」B 風景は素晴らしい。プロットに気が行かず。少年の微笑は死刑囚の最後の一服効果。ダビデとゴリアテ話。それにしてはゴリアテベネディクトが弱い。
「ロスト・ドーター」C - 空疎な演技マニフェスト。
「ハウス・オブ・グッチ」C タブロイド紙のスキャンダル記事を読む感じの映画。名優アダム・ドライヴァーがキャリア最悪の役どころを諦めの境地で演じている。ジャレド・レトの特殊メイクだけが見もの。
「Designated Survivor宿命の大統領」A シーズン1は面白し。キーファーうまい。大統領府のメンツも良い。マギーQの捜査ぶりが段々おかしくなる。シーズン2途中でギヴアップ。
■ 「ファウンデーション」A 2021年度作品全10話ほぼ一気見。アイザック・アシモフの名作が映像化されたという驚き。それが配信大奔流にひっそり(私の目から見れば)埋もれていた驚き。ヴィジュアル豪華。演技陣もいい。物語性に感動。演出はイマイチ。殊に#9と10にかけてアクションのツメでヘタっている。ジャレド・ハリス、リー・ペイスは堂々と君臨。二人のヒロイン、ルー・ローベル、レア・ハーヴェイもいい。
脇で大金星はフィンランドの女優ラウラ・ビルン。彼女のデマーゼルを見るだけでも価値がある。ワンエピソードで彼女と絡むトニア・ミラーの存在感&演技力も圧巻。
「キャッシュ・トラック」C+ 語り口に工夫はあるものの奇を衒い過ぎたあまりおバカなレヴェルに堕ちたアクションフリック。ジェイソンが単調ハード。ありえない復讐話。偶然が重なりすぎ。終盤アクションのコレオグラフ下手。敵味方の秒単位の動き把握できず演出による臨場感なし。ガイ・リッチーの限界がよく見える。ホイトもジョッシュもスコットも無駄遣い。
「ベルイマン島にて」A – ケルティック・ハープとフォーレ島の風景とヴィッキー・クリープスの雰囲気が全て。ティム・ロスはしどころのない役。いつかこの島に滞在してベルイマン財団の人々とかたりあいたい。
「フレンチ・ディスパッチ」B + ベニシオ、レア、ブロディのアートセクションのみ面白かった。ウェス・アンダーソンには確固としたストーリーが必要。シュテファン・ツヴァイクのような原作者が。
「原潜ヴィジルVIGIL」A 6エピソード一気見。サラン・ジョーンズ、ローズ・レスリー愛し合う女刑事2人がめっちゃうまい。原潜の男女も適材適所。6話のアクション仕立てが間伸びして残念。サランを魚雷発射管に閉じ込めて話が空回りしている。5話まではHBO「チェルノブイリ」の緊迫感で攻めていたのに。
「ミュンヘン The Edge of War」B ジョージ・マッケイ、ヤーノス・ニーヴナーの英独キャラがメイン・キャスト。監督はクリスティアン・シュヴォホー。映像よし。ベン・パワー脚本イマイチ。チェンバレン首相(ジェレミー・アイアンズ)を口説く3分間の台詞のお粗末さに呆れた。お子ちゃまの怒りで英国首相とヒトラーの蜜月を破壊できるわけがない。
■ 「ドリーム・プランKing Richard」A ウィル・スミス、アーンジャヌー・エリスの夫婦像が圧倒的な見応え。これにヴィーナス、セリーナを演ずる娘たちが加わって、他の姉妹ともども家族を形成するアンサンブルがすごい。さらに初期のコーチ、トニー・ゴールドウィンと成功への架け橋となるコーチ、ジョン・バーンサルの二人も見事。レオナルド・マーカス・グリーンの演出力が抜群ということになる。映像アプローチがオーソドックスゆえ監督賞にはノミネートされないが、彼の功績は大きい。脚本も巧み。
「355」C+ ジェシカ・チャスティンがなんでこんなアクション映画をやりたいのか理解不可能。シャリーズ・セロンには遠く及ばない。
「モータル・コンバット」C – アジア系役者を使ったことだけがよし。
「ユダ&ブラック・メシア」A ダニエル・カルーヤの上手いこと。シャカ・キングの演出もよし。「ブラッククランズマン」とは比較にならないくらい上質な黒人潜入捜査官のドラマ。ラキーシャ・スタンフォード、ジェシー・プレモンス以下のキャストも一流演技。アンサンブルも見事。ラストの殺戮はアメリカ公民権運動時代の権力の闇を渾身の力で描いている。
「瞳に映るもの」B デンマークの第二次大戦秘話。キャストも映像もいいが、脚本が幼い。脚本監督はオーレ・ポルネダル。子役が素晴らしい。
「ブラック&ブルー」C ナオミ・ハリス主演のダメ映画ア・ラ・セルピコ。
「ザ・バットマン」B + 画面暗すぎ。TOHOシネマズ日比谷だったけれど、映写機のレンズを磨いてないんじゃないか。最近そういう映画館が増えていると撮影監督からよく聞く。前半退屈。パティンソンはいい。
「The Sinner隠された理由」A – 2018年のセカンドシーズンにおけるキャリー・クーンとビル・プルマンの対決が面白し。キャリーはアンドレアと同年生まれ。
■ 「Tokyo Vice #1」A さすがマイケル・マン。映像センスよし。ロケ地も文句なし。アンセルと伊藤英明がとりあえずよし。新聞社上司の役二つが、セリフも芝居も、ん?となること多し。しかし、脇や端役の顔のアンサンブルが格段に優れている。面接官の英語を喋る男、焼身男の奥さん、ヤクザ幹部などなど。第二話以降が楽しみ。殊にHikariが監督した#4と5が興味あり。
とエピソード1を見た直後に書いたが、その後、撮影現場のとんでもない噂を耳にした。マイケル・マンがわがままし放題でこの一話だけで製作費をかなり使い込んでしまったこと、気が向かなければ撮影を中止してさっさと帰ってしまうこと、日本側からの修正要求が例によっての「これはアメリカ向けの作品だから」という製作側の一言で切り捨てられること、それによって生ずる歪みが日々拡大され現場は重信房子取材風景のように混沌し怒号が飛び交っていたことなどなど。唾棄すべき監督像が浮かび上がる。映画界のパワハラを追求したければこの現場での混沌と理不尽を取材すべきだろう。
結局、ジョセフ・クボタ某に監督交代した#2、#3は映像的にもお粗末で呆れてしまい、Hikariだけはなんとか頑張っているだろうと見てみた#4は脚本(ナオミ・イイヅカ)、演出の不備が随所にあって大失望。
ということで「Tokyo Vice #4」はC。菊池凛子が警察官3人から情報を引き出す居酒屋シーンの会話が変。彼女の英語芝居の限界は#1から明らかだったが、このシーンでの日本語芝居も変。ナオミ・イイズカの脚本が問題なのか、Hikariの演出解釈に責任があるのかはわからない。
谷田歩の腕時計のシーンには唖然。高級中華レストランの通路を歩き過ぎていくヤクザの大物に、時計がカッコいいなどと声をかけるジャーナリストがどこにいる!こういうことをアンセルに言わせたければ、谷田が立ち止まって、笠松将と食事中のアンセルをねめつければいい。その緊張感を解くためにアンセルが時計のことを言うなら成立する。コモンセンスに欠けたシーン、非常識なシーンがこのエピソードでは多すぎる。
ちなみにナオミ・イイヅカ女史はアメリカに於ける日系人戯曲家としてトップクラスの人。大学でも教鞭をとっている。が、映像作品の脚本は何本かあるようだが、ヤクザの世界とは肌が合わないのだろう。シーンの運びもギクシャクしているし、日本語のセリフを書く力にも限界があるようだ。
■ 「知られざるマリリン・モンロー」B 興味深いドキュメンタリーだが、電話取材の著名人を声は本人、姿を役者で再現という方法論が不快。なんでジョン・ヒューストンがこんなブサイク男なんだ、と腹が立った。
「心と体と」A アレキサンドラ・ボーベリーがひたすら魅力的&素晴らしい。
「チェルノブイリ1986」C – 導入部20分のお粗末な展開に唖然。10年ぶりの出会いでギクシャクしている男女が、2週間後、再びギクシャクしている。アホか。子供がいるのに大人2人でケーキ食べるって何だぁ?とか、常識に欠けたシーンが相次ぐ通俗メロドラマ。終盤退席。監督・主演男が頭悪すぎ。決死隊に近道があることも言わずに一度は逃げ、女のところへ行くなどおかしな展開が続く。
「ドクター・ストレンジ/マルチバース」B 特撮はすごいが、もっと建設的な企画で使ってほしいものだ。「鬼子母神」とのダラダラ続く戦いにうんざり。
「パリ13区」A – ジャック・オーディアールが過ぎ去りし日のラヴライフに思いを馳せているかのような若者セックス武勇伝。主役3人(ルーシー・チャン、マキタ・サンバ、ノエミ・メルラン)の演技は確かなものがあるし、すっぽんぽんで頑張っている。モノクロ撮影とMもよし。最も印象的なのは主役3人ではなくアンバー・スイート役のジェニー・ベス。日曜日のエピソードでノラ(ノエミ)に会うアンバーの、会いたい気持ち9、迷い1の歩みに何故か大感動。涙がしばらく止まらなかった。
■ 「LOVE DEATH + ROBOTS」Season 3 デーヴィッド・フィンチャー演出のBad Travellingは筋立てが面白かったし、Night of the Mini Deadにはゲラゲラ笑った。殆ど全てがAランクの面白さだったが、ひとつ突拍子もないスグレモノがラストにあった。アルベルト・ミエルゴが演出したJIBAROだ。このテクニック、ヴィジュアルにはとてつもない刺激を受けた。後日見たSeason 1にもミエルゴ作品があった。The Witness。このヴィジュアルと展開も素晴らしい。
「シャドー・ダンサー」B + たまたま遭遇したアンドレア・ライズボローの2012主演作。1993年の英国諜報部MI5とIRAテロリスト・グループの心理戦を描いたスリラーで、大枠においてはジェームス・マーシュ演出が手堅い。密告者の役割を強制されるコレット(アンドレア)も、強制するマック(クライヴ・オウエン)もうまいが、ちょっとしたところに歪みがある。例えば、川縁の密会場所にコレットがとっても目立つ赤いコートを着ていく。密会ですよ。目立っちゃいけないんですよ。リアルなタッチから大きく外れている。テロリスト仲間のケヴィン(デーヴィッド・ウィルモット)とコレットの弟コナー(ドーナル・グリーソン)の敵対関係もよくわからない。自分の密告者を救うために上司(ジリアン・アンダーソン)の密告者を売るというクライマックスも説得力がない。次のステップ、「まさかの爆殺」に無理やり持っていくための筋立てでしかない。
■ 「Slow Horses窓際のスパイ」A – MI5モノが続く。ゲイリー・オールドマン率いる「泥沼館スラブハウス」の住民たち(窓際族諜報員)がMI5本家と戦う展開は面白い。演技陣も、ジャック・ロウデン、クリスティン・スコット・トーマス、サスキア・リーヴス、ダスティン・デムリ・バーンズ、ロザリンド・イリーザー、オリヴィア・クックが見事なアンサンブルを奏でている。シド役のオリヴィアなど、格調高きヒロインとして大活躍するかと思ったら第二話で消えてしまった。その喪失感にしばらく立ち直れなかったほどだ。下っ端ワルのカーリー(ブライアン・ヴァーネル)が凶暴ワルに変身するプロセスも面白い。
しかし、これもまた、気の行かない展開が足を引っ張る。各エピソード間の時間差の調整がうまくできていない。脚本の問題点を演出、編集で解決できなかったことになる。ジェームス・ハースの演出は役者を使う点では一流だが、一人一人の行動ロジックを把握できていない。殊に、終盤部の追っかけごっこの展開に難がある。混乱もする。
とはいえ、ゲイリー演ずるジャクソン・ラムのキャラが「裏切りのサーカス」でゲイリーが演じたジョージ・スマイリー以上に「盛りを過ぎて腹にガスを溜め込んだ」ジョージ・スマイリーっぽくて、彼を見ているだけで心が豊かになる。このゲイリーはチャーチルのゲイリーを超えている。
そしてもう一つ気になったことがある。「フォー・ウェディング」から「イングリッシュ・ペイシェント」にかけて、私の憧れの人であったクリスティンの今、である。老けてなお、MI5の冷徹な部長を演じて魅力的ではある。が、あのパラシュートのようにどでかいスカートはなんなんだ。
6話続きで、ほぼ一昼夜の攻防が描かれるため、クリスティンはコートを羽織っていない時は、デカスカートで歩き回る。下半身主体に肉がついてしまったのだろうか。痩身美女ナンバーワンだったクリスティンが、下半分2倍弱になってしまったのか。気になって気になって夜も眠れない。
そういえば、「バタフライ・キス」の魅力的な演技派だったサスキア・リーヴスも、27年経ったら演技派老婆となっていた。クリスティンもサスキアも、私よりは若いわけで、寄る年波の話はやがて自分に返って来ることは必至なのだが・・・。
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